罪と償いと復讐と超越の物語『恩讐の彼方に』
本作『恩讐の彼方に』の作者は、菊池寛。文芸春秋を創刊したり、芥川賞・直木賞を創設したりと、作家としてばかりでなく、実業家としての顔もまた有名である。本作は、作者が人気作家へ向けてスタートを切った出世作であり、また代表作の一つでもある。わずか31歳で本作の ...
差別と差別語の間『差別語からはいる言語学入門』
本書『差別語からはいる言語学入門』は、差別語をテコにした言語学の本である。さまざまなニュアンスが染みつく日常語は豊かな言語の土壌である反面、その負のニュアンスが肥大化すると差別語を生み出す、したがって差別語を通して見ると生きた言語のさまざまな側面が見えて ...
謎が謎を呼ぶメタ・ミステリー『深夜の市長』
管理人は、SFやミステリーの類を読むのは自粛している。嫌いなわけではなく、面白すぎてそればかり読むようになってしまいそうだからだ。そこで、何かの理由をつけて、これは例外なのだという顔をして読むことにしている。本作『深夜の市長』での理由は、作者が日本のSF ...
笑いは武器かガス抜きか『ナチ・ドイツと言語』
少し以前に、日本のコメディー界には欧米のそれにあるような権力批判が欠けているのではないか、というような話があった。確かに、(皆が皆ではないにしても)欧米の一流のコメディーには笑いだけでなく、権力者に対する風刺や、政治批判・社会批判が込められていることが多 ...
年末恒例の読みさし本クリア
毎年、年末が近くなるとやっていることがある。その年に読み始めたが、読みさしのまま止まっている本を、まとめて仕上げることだ。昨年の場合は、アシュトンの『産業革命』(戦後の本であるが、思ったより産業革命の肯定面を重視するようだ)とチェーホフの『桜の園・三人姉 ...
ロジック明晰な音韻論の古典『古代国語の音韻に就いて』
本書『古代国語の音韻に就いて』は、国語学者である著者が、古代の文献に使われていた万葉仮名の分析により、古代の日本語の仮名遣いを明らかにしつつ、それと表裏一体をなす音韻を推測していく、というもの。説明のベースには、江戸時代の国学者であった契沖阿闍梨や石塚龍 ...
猥雑と混沌の『上海』
本作『上海』は、作者である横光利一の最初の長編小説であり、代表作の一つでもある。そして、「序」で述べられているように、後から改稿もした「最も力を尽くした作品」であるようだ。ただ、その割になのか、それ故になのか、作者の短編、例えば『機械』や『微笑』に見られ ...
漢字文化圏の言葉と芸術『書とはどういう芸術か』
管理人は、「書」については素人である。しかし、たまたま読んだ本書『書とはどういう芸術か』は、意外にも興味深く感じられた。本書の本題は、書家である著者が、書の芸術性の本質を探るという表題どおりのもの。それ自体は、はっきりと言い表すことは難しいものの明らかで ...
シェイクスピアの「人違い」劇の傑作『十二夜』
本作『十二夜』は、シェイクスピアの喜劇の中でも最高との評価がある。いわゆる「人違い」ものの恋愛話で、話そのものは他愛もないものだ。しかし、(解説によると)時の宮廷人に対する批判なども混ぜ込んでいるらしく、なかなか手が込んでいる側面もある。管理人は、全般に ...
摩訶不思議な超難解本『論理哲学論考』
どうしてこの本を買ってしまったのか、良く分からない。おそらく、何か別の本で言及されていたので(あちこちで言及されてはいるが)、気になって買ったのだろう。買った以上は、読んだ。読んではみたが、何のことやら分からなかった。当然と言えば当然である。そもそもこの ...