泉鏡花渾身のゴルディアン・ノット斬り『夜行巡査』
ゴルディアン・ノットとは、アレクサンドロス大王にまつわる古代神話に出てくる難問である。「この結び目を解くことができた者こそ、アジアの王になるであろう」と予言された堅い結び目を、アレクサンドロスは剣で一刀両断にしたのである。少々乱暴なところはあるものの、目 ...
名探偵は要らなかった?『パノラマ島奇談』
本作『パノラマ島綺譚』は、江戸川乱歩としては長目の中編、奇想天外なある方法で無人島に自身の芸術の粋を集めた「パノラマ島」を築くという狂気を描いたものだ。ミステリーとしてはその「方法」のところがメインなのかも知れないが、本作をただのミステリーに終わらせない ...
人間の物語か荒野の物語か『荒野の呼び声』
本作、ジャック・ロンドンの『荒野の呼び声』は、何度か映画化されているし、確かアニメにもなっていたはずである。それなりに有名であることは知っていたし、原作があることも知っていた。ただ、映画やアニメが先に来るとチープ感がついて回る感じがして、敬遠していたわけ ...
モノの消滅、人の消滅『密やかな結晶』
本作『密やかな結晶』は、当代一流のストーリー・テラーである作者の比較的初期の作品である。少し前にブッカー国際賞の候補になったのは、作者の作品としては珍しく社会目線が強い作品である故か。もっとも、舞台である架空の島から次々とモノが消滅していくという異様な世 ...
老学士院会員「浮世」で奮闘す『シルヴェストル・ボナールの罪』
本作『シルヴェストル・ボナールの罪』は、作者アナトール・フランスの出世作ということである。主人公のボナール先生は中世修道院の歴史を研究する老学士院会員、そして本に囲まれ古書の目録を味読する本の虫であるから、ギッシングの『ヘンリ・ライクロフトの私記』のよう ...
犯罪心理と裁き手の心『殺された天一坊』
本作『殺された天一坊』は、探偵小説の古い小品。作者の浜尾四郎は検事から弁護士に転じた身で、かつては犯罪心理を研究していたという。現在でも専門家がその筋の作品を書くということはあるが、当時は珍しかったかも知れない。作者には『殺人鬼』のような本格的な探偵小説 ...
「クオリティ」の禅問答哲学『禅とオートバイ修理技術』
奇書好きの管理人にとって外せないのが、本書『禅とオートバイ修理技術』だ。題名からして奇異であるが、何やら哲学やテクノロジー論と関係したものらしい。そもそも管理人が本書の存在を知ったのは、たまたま読んでいた本が何と二冊続けて本書を引用していたからだ。二冊は ...
地球温暖化でイーハトーヴを救え!『グスコーブドリの伝記』
本作『グスコーブドリの伝記』は、宮沢賢治の童話。内容をつづめれば、主人公のブドリが、貧しい少年時代からの苦学の末、クーボー大博士に見込まれて火山局の技師となり、ついには科学技術の力をもって激しい寒気と凶作に立ち向かう、自身の生命という尊い犠牲を払って、と ...
小津映画ばりの超絶モノクローム小説『桑の実』
管理人はそれほど起伏のない小説も好んで読むのだが、本作『桑の実』には驚かされた。本当に何も起こらない。起こらないどころか、何か起こりそうなところをあえて抑え込んでしまうような徹底ぶりなのだ。作者は「赤い鳥」など童話で有名な鈴木三重吉、童話の手法が何か関係 ...
遠い昔の遠くない記憶『青べか物語』
本書『青べか物語』は、作者が1年半ほど住んでいた浦粕での人や事件を題材にした小説である。その1年半とは1928年頃のこと、浦粕とは現在の浦安である。実は管理人も30年以上も前にその近くに住んでいたことがあるのだが、本作に出てくる浦粕とは比べ物にならない。 ...