動物の性と人間の性『失われた名前』

本書『失われた名前』は、幼くして南米コロンビアのジャングルに置き去りにされ、「サルとともに生きた」女性の自伝である。「サルとともに生きた」とは副題の言葉であるが、実際、半ばサルの仲間になりながら、見様見真似でジャングルを生き抜いたのだ。もっとも、本書の半 ...
完全自由の先の断崖絶壁『村に火をつけ、白痴になれ』

本書『村に火をつけ、白痴になれ』は、無政府主義研究者である著者による伊藤野枝の(きわめて軽い文体による)評伝である。野枝については大杉と共に『科学の不思議』で触れたことがあるが、本書はその主義と生き方そのものを伝える本である。表題は小説の中での話のようで ...
異国の経済を立て直した昭和の日本式エネルギー『ルワンダ中央銀行総裁日記』

本書『ルワンダ中央銀行総裁日記』は、正にタイトルどおりの本。話が開発途上国の経済立て直しというものだから、浮かれた話は一切出てこないのだが、冷静に考えてみるとやっていること自体は相当に破天荒である。地球の裏側の国で何かを売り歩いたとか、何かのビジネスを立 ...
異常と正常、狂気と天才『妻を帽子とまちがえた男』

本書『妻を帽子とまちがえた男』は、脳神経科医である著者の初期のノンフィクション作品である。表題のとおり、たいへん奇妙な症状を持った患者がたくさん登場するのだが、単なる医学的な報告ではなく(多少は説明されているが)、人間や人生についての考察だ。登場する患者 ...
いまだ解読されない奇書の横綱『ヴォイニッチ写本の謎』

奇書や珍本の類ということで言えば、この本を外してはいけないだろう。「この本」とは、本書で扱われている「ヴォイニッチ写本」のことである。「写本」は、書かれた内容はおろか、時代も、目的も不明な全246頁の総天然色絵入り本である。本書『ヴォイニッチ写本の謎』は ...
本の力、思想の力『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』

本書『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』は、まさに「数奇な運命を辿った本」についての本である。その本とは、紀元前一世紀に生きたルクレティウスの手になる、原子論的自然学を説いた『物の本質について』。この本自体が大変な珍本で、近代科学につながる物質や宇宙 ...
まだ独立はしていないハイパー民主主義国家『謎の独立国家ソマリランド』

本書『謎の独立国家ソマリランド』は、出版された2013年にノンフィクション部門の出版賞を総なめにした超ベストセラー本である。帯にも「三冠制覇!」などと書かれている。そういう本はわざわざ紹介するまでもないのだが、本書はやはりそれに値する。ということで、少し ...
北朝鮮での数奇な日常『拉致と決断』

本書『拉致と決断』は、北朝鮮による拉致の被害者の一人である著者が、拉致から24年後に日本に帰国するまでの生活と思いを、帰国の10年後に著したものである。それだけの年月が「北朝鮮での24年間全体に真正面から向き合」うのに必要だったということだ。管理人は、数 ...
フォト・ジャーナリズムに賭ける『南ベトナム戦争従軍記』

本書『南ベトナム戦争従軍記』は、ニュース・フォトグラファーである著者が、ベトナム戦争に従軍取材した記録をまとめたもの。現地取材どころか、戦闘の真っただ中での生々しい戦争の姿を描き出している。管理人の世代でも、ベトナム戦争はほぼ「歴史」である。当時と今とで ...
星新一による「文学的敵討ち」の書『人民は弱し 官吏は強し』

本作『人民は弱し 官吏は強し』の作者は星新一、言わずと知れたショート・ショートの名手である。しかし、本作はショート・ショートではなく、父親である星一氏(以降、「星氏」は一氏の方を指す)の事業の成功と挫折を描いた伝記小説的ノンフィクションである。管理人は本 ...