AIに政治は任せられるか『訂正可能性の哲学』
これは数ある論点のうちの一つにすぎないのだが、人工知能民主主義(あまりに複雑になった世界においては、貧しい知能しか持たない人間を政治から追放し、意志決定を人工知能に任せるべきだとする政治思想)について、本書は皮肉かつ適切な指摘をしている。曰く、 [人工知 ...
「自発的隷従」をしているのは誰なのか
自発的隷従とは、なぜたった一人の支配者に多数の国民が隷従してしまうのか、という疑問に対して著者ボエシが答えようとした、被支配者側の習性ないしは性向である。本書では、支配者がしばしば用いる飼い慣らしのための詐術にも触れられているが、真に問題なのは、自由を失 ...
忠臣蔵は忠義の物語にあらず『忠臣藏とは何か』
忠臣蔵というものが分からなかった。端的に、たかだか主人の名誉くらいの話で生命を投げ出すなどというのは気が知れないということだ。史実としてのそれ(赤穂事件)や成立期の芝居としてのそれは江戸時代の話だから古い時代の話と割り切れたが、現代人までが年の瀬ともなる ...
『政治学入門』という名の現代の『君主論』
本書『政治学入門』は、わずか100頁ほどの小著であるが中身は濃い。「政治学」とあるが政治そのものについての本であり、「入門」とあるが教科書的な入門書ではなく著者の信念がこもっている。「政治」の本質に遡って基本的な視座を示してくれる、さらに言えば、多くの人 ...
動物の性と人間の性『失われた名前』
本書『失われた名前』は、幼くして南米コロンビアのジャングルに置き去りにされ、「サルとともに生きた」女性の自伝である。「サルとともに生きた」とは副題の言葉であるが、実際、半ばサルの仲間になりながら、見様見真似でジャングルを生き抜いたのだ。もっとも、本書の半 ...
完全自由の先の断崖絶壁『村に火をつけ、白痴になれ』
本書『村に火をつけ、白痴になれ』は、無政府主義研究者である著者による伊藤野枝の(きわめて軽い文体による)評伝である。野枝については大杉と共に『科学の不思議』で触れたことがあるが、本書はその主義と生き方そのものを伝える本である。表題は小説の中での話のようで ...
スポーツ賭博から厚底シューズまで『スポーツルールの社会学』
本書『スポーツルールの社会学』は題名どおり、スポーツの歴史や社会との関わりを主にルールの側面から俯瞰した小著である。近年のスポーツの変質を嘆くあまり、妙なところに力こぶが入っているところもあるが、興味深い話が幾つも出ている。少し古くなってしまっていて、最 ...
日本的精神が生む受動的全体主義の悲劇『特攻』
本書『特攻』は題名の通りあの特攻、すなわち死を前提に敵艦に突っ込んだ「特別攻撃隊」について書かれたものだ。特攻に関する文献は本書でもいろいろ引かれているように多数ある。その中で、比較的新しい資料やインタビューを含めて書き下ろされたのが本書だ。多くの言葉を ...
地球温暖化でイーハトーヴを救え!『グスコーブドリの伝記』
本作『グスコーブドリの伝記』は、宮沢賢治の童話。内容をつづめれば、主人公のブドリが、貧しい少年時代からの苦学の末、クーボー大博士に見込まれて火山局の技師となり、ついには科学技術の力をもって激しい寒気と凶作に立ち向かう、自身の生命という尊い犠牲を払って、と ...
全体主義から共産主義を経て権威主義へ『隷従への道』
本書『隷従への道』は、著者ハイエクの主著の一つ。自由主義や民主主義が全体主義へと「隷従」していきかねない思想と社会の動きに警鐘を鳴らしたものだ。本書の出版は1944年、第二次世界大戦中であるから、必ずしも西が東を敵と見た本ではない。むしろ西の中に胚胎しつ ...