名探偵は要らなかった?『パノラマ島奇談』
本作『パノラマ島綺譚』は、江戸川乱歩としては長目の中編、奇想天外なある方法で無人島に自身の芸術の粋を集めた「パノラマ島」を築くという狂気を描いたものだ。ミステリーとしてはその「方法」のところがメインなのかも知れないが、本作をただのミステリーに終わらせない ...
人間の物語か荒野の物語か『荒野の呼び声』
本作、ジャック・ロンドンの『荒野の呼び声』は、何度か映画化されているし、確かアニメにもなっていたはずである。それなりに有名であることは知っていたし、原作があることも知っていた。ただ、映画やアニメが先に来るとチープ感がついて回る感じがして、敬遠していたわけ ...
『政治学入門』という名の現代の『君主論』
本書『政治学入門』は、わずか100頁ほどの小著であるが中身は濃い。「政治学」とあるが政治そのものについての本であり、「入門」とあるが教科書的な入門書ではなく著者の信念がこもっている。「政治」の本質に遡って基本的な視座を示してくれる、さらに言えば、多くの人 ...
小津映画ばりの超絶モノクローム小説『桑の実』
管理人はそれほど起伏のない小説も好んで読むのだが、本作『桑の実』には驚かされた。本当に何も起こらない。起こらないどころか、何か起こりそうなところをあえて抑え込んでしまうような徹底ぶりなのだ。作者は「赤い鳥」など童話で有名な鈴木三重吉、童話の手法が何か関係 ...
遠い昔の遠くない記憶『青べか物語』
本書『青べか物語』は、作者が1年半ほど住んでいた浦粕での人や事件を題材にした小説である。その1年半とは1928年頃のこと、浦粕とは現在の浦安である。実は管理人も30年以上も前にその近くに住んでいたことがあるのだが、本作に出てくる浦粕とは比べ物にならない。 ...
未完にもほどがある未完の大作『神州纐纈城』
本作『神州纐纈城』は、未完ながら作者である国枝史郎の代表作。人の血を絞って染めた纐纈布をめぐって話が進むので、ジャンルとしては怪奇モノというようなことになるのだろうが、それに納まらない内容がある。本作と同じくらいの怪奇モノであれば、小説でも映画でも漫画で ...
人情モノであって任侠モノでない『花と龍』
そういう映画があることは知っていたが、原作が小説であることは知らなかった本書『花と龍』。読んだのもたまたま暇だったからであり、それほど期待はしていなかった。しかし、読んでみて驚いた。とにかく面白い。同じ大河小説である『ジャン・クリストフ』はノーベル文学賞 ...
哀しく美しい母子の物語、ではなかった『母子像』
著者である久生十蘭の作品を読んだのは、本書『母子像』が初めてである。「小説の魔術師」などと呼ばれていて興味があったので、まず手始めにということで、手軽に読める短編、それも世界短篇小説コンクールで第一席を獲得という本作を手に取った。サイパン陥落に関係してい ...
ベストセラー学者本を先取りした鴎外の哲学小説『かのように』
本作『かのように』は、妙な題名であるが、まさに題名どおりの問題をテーマにした「哲学小説」ともいうべき森鴎外の作品である。筋そのものは、洋行後に歴史家になろうとしている主人公が、学問上のスポンサーである子爵たる父親との間で思想上の衝突を避けるにはどうしたら ...
苦悩する孔子とその弟子たち『論語物語』
本書『論語物語』は、『次郎物語』で有名な著者の下村湖人が、『論語』の主な教えを同じ登場人物で物語風に再構成して見せたもの。『論語』の精神が分かりやすく示されていて、オリジナルの『論語』やその解説を読んだだけではいま一つピンとこないところが生き生きと描かれ ...