遠い昔の遠くない記憶『青べか物語』
本書『青べか物語』は、作者が1年半ほど住んでいた浦粕での人や事件を題材にした小説である。その1年半とは1928年頃のこと、浦粕とは現在の浦安である。実は管理人も30年以上も前にその近くに住んでいたことがあるのだが、本作に出てくる浦粕とは比べ物にならない。 ...
未完にもほどがある未完の大作『神州纐纈城』
本作『神州纐纈城』は、未完ながら作者である国枝史郎の代表作。人の血を絞って染めた纐纈布をめぐって話が進むので、ジャンルとしては怪奇モノというようなことになるのだろうが、それに納まらない内容がある。本作と同じくらいの怪奇モノであれば、小説でも映画でも漫画で ...
人情モノであって任侠モノでない『花と龍』
そういう映画があることは知っていたが、原作が小説であることは知らなかった本書『花と龍』。読んだのもたまたま暇だったからであり、それほど期待はしていなかった。しかし、読んでみて驚いた。とにかく面白い。同じ大河小説である『ジャン・クリストフ』はノーベル文学賞 ...
実は最高聖人を生み出す人間機械論『人間とは何か』
人間、どう変わるか分からない。本作『人間とは何か』の作者マーク・トウェインは、明るさに満ちたアメリカ文学の最高峰『ハックルベリィ・フィンの冒険』の作者でもあるのだが、晩年は本作のようなペシミズムに沈んだ。しかし、近年の脳科学の成果によれば、作者の人間機械 ...
哀しく美しい母子の物語、ではなかった『母子像』
著者である久生十蘭の作品を読んだのは、本書『母子像』が初めてである。「小説の魔術師」などと呼ばれていて興味があったので、まず手始めにということで、手軽に読める短編、それも世界短篇小説コンクールで第一席を獲得という本作を手に取った。サイパン陥落に関係してい ...
ベストセラー学者本を先取りした鴎外の哲学小説『かのように』
本作『かのように』は、妙な題名であるが、まさに題名どおりの問題をテーマにした「哲学小説」ともいうべき森鴎外の作品である。筋そのものは、洋行後に歴史家になろうとしている主人公が、学問上のスポンサーである子爵たる父親との間で思想上の衝突を避けるにはどうしたら ...
無で始まり無で終わる栄枯盛衰の物語『百年の孤独』
本書『百年の孤独』は、南米コロンビアのノーベル文学賞受賞作家ガルシア・マルケスの代表作。本作が受賞の決定打になったことは疑いないが、いかにも特異な作品である。受賞理由は「現実的なものと幻想的なものを結び合わせて、一つの大陸の生と葛藤の実相を反映する、豊か ...
苦悩する孔子とその弟子たち『論語物語』
本書『論語物語』は、『次郎物語』で有名な著者の下村湖人が、『論語』の主な教えを同じ登場人物で物語風に再構成して見せたもの。『論語』の精神が分かりやすく示されていて、オリジナルの『論語』やその解説を読んだだけではいま一つピンとこないところが生き生きと描かれ ...
凡俗と稀代の音楽家をめぐる言葉の洪水『ジャン・クリストフ』
本作『ジャン・クリストフ』は、ノーベル文学賞も受賞したロマン・ローランの代表作。主人公のクリストフは、べートーヴェンがモデルになっているらしい。作者には、『ベートーヴェンの生涯』という伝記作品もあり、そちらの方は当然のことながら、才能と栄光とに包まれてい ...
嵐の中を放浪するのは天才か落伍者か『放浪記』
本作『放浪記』は、冒頭にある「私は宿命的に放浪者である」の言葉が印象的な林芙美子の代表作。出版社の説明によれば、「貧困にあえぎながらも、向上心を失わず強く生きる一人の女性」の自伝風の作品、というようなきれいな話になるのだが、実際のところは作者も作品も掃き ...