極限状況での絶望と希望『白の闇』
冒頭、ある男の目が見えなくなったというところから、会話の引用符もなしに延々と続く本作『白の闇』の物語は、捉えどころがない。社会に生きる人々が次々に、やがては一人を除いて全員が失明するという特異な極限状況の下で、人間はどのように生きようとするのか、答えのな ...
超俗人の俗世界での闘い『ピープス氏の秘められた日記』
このブログには本のジャンルに対応したタグが15個あるが、本書『ピープス氏の秘められた日記』にはどれを付けたら良いのか悩ましい。とりあえず、当時の歴史が分かるから「歴史」と付けてみたが、いわゆる歴史本ではない。日記文学というのもあるから「文学」も入れてみた ...
獰猛な自然の闇、原始の人間性の闇『闇の奥』
本書『闇の奥』は、ポーランド系イギリス作家である作者の代表作。アフリカ最奥部の出張所で音信を絶った腕利きの象牙採取人を、船乗りの主人公マーロウが救出しに向かう、という筋書きだ。自ら船乗りとしてコンゴ川の上流まで行った体験を基にした、作者お得意の海(本作で ...
近代日本の『夜明け前』の激動期を生きた「人」と「家」と「故郷」
記念すべき100件目の記事は、この作品で。が、とにかく長かった。海外の小説では、ドストエフスキーにせよ、トルストイにせよ、長い小説に事欠かず、「プルーストの『失われた時を求めて』を読んで時が失われた」という笑い話があるくらいだが、日本の小説はそうではない ...
前衛詩人の短編小説『猫町』
本作『猫町』の作者である萩原朔太郎は、言うまでもなく(当時としては前衛の)詩人である。詩人ではあるが、数は多くはないものの小説や随筆も書いている。それが珍しくて本作を手にしたのだが、本の薄さ(その薄い文庫本に18編が採録されている)の割には中身は濃厚とい ...
『読んでいない本について堂々と語る方法』があるようだが結局は全部読んでしまう
本書『読んでいない本について堂々と語る方法』は、誤解されそうな題名がついているが、読んでもいない本について知ったかぶりをするとか、読んでいない本について読書感想文を書くとかといった本ではない(それにも使えそうではあるが)。本を読むより自分自身を語ることの ...
平凡ならざる作者の平凡ならざる思想と感情『平凡』
本作『平凡』の作者は、言文一致と写実主義で知られる二葉亭四迷である。本作は実際はフィクションなのだが、冒頭で「近頃は自然主義とか云って、何でも作者の経験した愚にも附かぬ事を、聊かも技巧を加えず、有の儘に、だらだらと、牛の涎のように書くのが流行るそうだ。好 ...
芥川龍之介渾身の心理短編『三右衛門の罪』
本作『三右衛門の罪』は芥川龍之介の短編。十ページ少々の作品である。それほど有名ではないかも知れないが、一点に絞ったテーマに、実に考えさせられるところがある。梗概を書けば数行で足りるだろうし、知ってしまえば初めから分かっていたような気にもなるのだが、人の心 ...
古典を超えた現代の古典『走れメロス』
管理人が本作『走れメロス』を初めて読んだのは、小学校の国語の教科書だったのではないかと思う。なぜ(太宰の他の作品を差し置いて本作が)教科書に載るかと言えば、信頼の尊さを貴ぶ内容が、国語というよりは道徳の教材として優れているという見立てなのだろう。そういう ...
罪と償いと復讐と超越の物語『恩讐の彼方に』
本作『恩讐の彼方に』の作者は、菊池寛。文芸春秋を創刊したり、芥川賞・直木賞を創設したりと、作家としてばかりでなく、実業家としての顔もまた有名である。本作は、作者が人気作家へ向けてスタートを切った出世作であり、また代表作の一つでもある。わずか31歳で本作の ...