前衛詩人の短編小説『猫町』
本作『猫町』の作者である萩原朔太郎は、言うまでもなく(当時としては前衛の)詩人である。詩人ではあるが、数は多くはないものの小説や随筆も書いている。それが珍しくて本作を手にしたのだが、本の薄さ(その薄い文庫本に18編が採録されている)の割には中身は濃厚とい ...
本の力、思想の力『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』
本書『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』は、まさに「数奇な運命を辿った本」についての本である。その本とは、紀元前一世紀に生きたルクレティウスの手になる、原子論的自然学を説いた『物の本質について』。この本自体が大変な珍本で、近代科学につながる物質や宇宙 ...
『読んでいない本について堂々と語る方法』があるようだが結局は全部読んでしまう
本書『読んでいない本について堂々と語る方法』は、誤解されそうな題名がついているが、読んでもいない本について知ったかぶりをするとか、読んでいない本について読書感想文を書くとかといった本ではない(それにも使えそうではあるが)。本を読むより自分自身を語ることの ...
鉄道は読書の空間と時間をも生み出した『鉄道旅行の歴史』
読書は電車の中で捗る。通勤電車の中の15分ですら、なかなか貴重だ。旅行の予定でもあれば、移動時に読む本をあらかじめ仕込んでおく。さらに時間が増える飛行機はなお良しで、管理人は機内配信のビデオなど見たことがない。こういう感覚は当たり前に思えるのだが、当然、 ...
平凡ならざる作者の平凡ならざる思想と感情『平凡』
本作『平凡』の作者は、言文一致と写実主義で知られる二葉亭四迷である。本作は実際はフィクションなのだが、冒頭で「近頃は自然主義とか云って、何でも作者の経験した愚にも附かぬ事を、聊かも技巧を加えず、有の儘に、だらだらと、牛の涎のように書くのが流行るそうだ。好 ...
最速投手の今昔『プロ野球ヒーロー 伝説の真実』
史上最も速いランナーは誰か、最も強いチェス・プレイヤーは誰か、といったことは、スポーツを初めとする競技でのファンの関心事の一つである。本書『プロ野球ヒーロー 伝説の真実』は、その野球版を扱ったデータ本である。本書には、プロ野球の黎明期からの伝説の選手達に ...
「分からない」哲学の正体『「知」の欺瞞』
著者が仮に「ポストモダニズム」と呼ぶ哲学がある。著者の説明によれば、啓蒙主義の合理主義的伝統を多少なりともあからさまに拒否すること、経験に照らし合わせての検証とは結びつかない論考、そして認識的相対主義や文化的相対主義を標榜して科学を数ある「物語」、「神話 ...
芥川龍之介渾身の心理短編『三右衛門の罪』
本作『三右衛門の罪』は芥川龍之介の短編。十ページ少々の作品である。それほど有名ではないかも知れないが、一点に絞ったテーマに、実に考えさせられるところがある。梗概を書けば数行で足りるだろうし、知ってしまえば初めから分かっていたような気にもなるのだが、人の心 ...
まだ独立はしていないハイパー民主主義国家『謎の独立国家ソマリランド』
本書『謎の独立国家ソマリランド』は、出版された2013年にノンフィクション部門の出版賞を総なめにした超ベストセラー本である。帯にも「三冠制覇!」などと書かれている。そういう本はわざわざ紹介するまでもないのだが、本書はやはりそれに値する。ということで、少し ...
古典を超えた現代の古典『走れメロス』
管理人が本作『走れメロス』を初めて読んだのは、小学校の国語の教科書だったのではないかと思う。なぜ(太宰の他の作品を差し置いて本作が)教科書に載るかと言えば、信頼の尊さを貴ぶ内容が、国語というよりは道徳の教材として優れているという見立てなのだろう。そういう ...