ロジック明晰な音韻論の古典『古代国語の音韻に就いて』
本書『古代国語の音韻に就いて』は、国語学者である著者が、古代の文献に使われていた万葉仮名の分析により、古代の日本語の仮名遣いを明らかにしつつ、それと表裏一体をなす音韻を推測していく、というもの。説明のベースには、江戸時代の国学者であった契沖阿闍梨や石塚龍 ...
科学と魔術とトリックの日本社会『科学と社会』
本書『科学と社会』の著者は中谷宇吉郎。寺田寅彦を師に持ち、北大を拠点に低温科学の研究に多大の業績を残した物理学者である。世界で初めて人工雪の製作に成功したことで知られるほか、科学を題材とした一般向けの随筆もよくした。中でも『雪』は、科学者としての冷静な観 ...
猥雑と混沌の『上海』
本作『上海』は、作者である横光利一の最初の長編小説であり、代表作の一つでもある。そして、「序」で述べられているように、後から改稿もした「最も力を尽くした作品」であるようだ。ただ、その割になのか、それ故になのか、作者の短編、例えば『機械』や『微笑』に見られ ...
漢字文化圏の言葉と芸術『書とはどういう芸術か』
管理人は、「書」については素人である。しかし、たまたま読んだ本書『書とはどういう芸術か』は、意外にも興味深く感じられた。本書の本題は、書家である著者が、書の芸術性の本質を探るという表題どおりのもの。それ自体は、はっきりと言い表すことは難しいものの明らかで ...
シェイクスピアの「人違い」劇の傑作『十二夜』
本作『十二夜』は、シェイクスピアの喜劇の中でも最高との評価がある。いわゆる「人違い」ものの恋愛話で、話そのものは他愛もないものだ。しかし、(解説によると)時の宮廷人に対する批判なども混ぜ込んでいるらしく、なかなか手が込んでいる側面もある。管理人は、全般に ...
摩訶不思議な超難解本『論理哲学論考』
どうしてこの本を買ってしまったのか、良く分からない。おそらく、何か別の本で言及されていたので(あちこちで言及されてはいるが)、気になって買ったのだろう。買った以上は、読んだ。読んではみたが、何のことやら分からなかった。当然と言えば当然である。そもそもこの ...
エリート教養人の快楽と自己満足『罰せられざる悪徳・読書』
本書『罰せられざる悪徳・読書』は、蔵書2万5千冊という読書人である著者が、理想の読書について語ったものである。タイトルは、冒頭で引用されているアメリカの詩人の散文詩から採られたもの。訳者の解説によると著者のお気に入りで他書の表題にも使われているらしい。訳 ...
思春期の不安定小説『悲しみよ こんにちは』
本作『悲しみよ こんにちは』は、著者サガンのデビュー作、そしておそらく最も読まれた代表作だろう。と言うよりは、華々しいデビュー作の後はそれほど振るわなかったというのが実際のところかも知れない。本作にしても、少々刺激的な作品の主人公と、18歳という若さの女 ...
科学は神話の後継者『宇宙の始まり』
本書『宇宙の始まり』は、スウェーデンの物理化学者である著者が1907年に書いた、神話時代から現代(著作時点)までの宇宙開闢の認識についての「進歩」を語ったものである。あえて「進歩」と言ったのは、著者が科学者であるばかりでなく、同時代の西欧の知識人の例に漏 ...
男女関係ぬきの『或る女』はどうだろうか
本作『或る女』は、有島武郎の長編小説。主人公である葉子は、非常に現代的かつ蠱惑的な女であって、倉地、木村はもとより、作中で名前が挙がるほどの男は皆、彼女の虜になってしまう。小説でそう創られているのだからそうだというしかないのだが、そんな女が実際どれほどい ...