フォト・ジャーナリズムに賭ける『南ベトナム戦争従軍記』
本書『南ベトナム戦争従軍記』は、ニュース・フォトグラファーである著者が、ベトナム戦争に従軍取材した記録をまとめたもの。現地取材どころか、戦闘の真っただ中での生々しい戦争の姿を描き出している。管理人の世代でも、ベトナム戦争はほぼ「歴史」である。当時と今とで ...
核シェルターと秘密基地『方舟さくら丸』
本作『方舟さくら丸』は、安部公房の作品としては、特に有名な方ではないかも知れないが、管理人にとっては、他の作品と同じかそれ以上に惹かれる作品だ。本作は、主人公が地下採石場跡の巨大な洞窟に核シェルターの設備を造り上げ、そこで仲間との共同生活を始めたものの… ...
超絶AIと意味のない世界『スーパーインテリジェンス』
AIが進化している。いろいろと人間脳の制約を引きずる全能エミュレーションなどと異なり、機械的なAIはいかに困難で時間がかかるとしても、シンギュラリティのレベルに達することに原理的な制約は見当たらない。そして、いったん軌道に乗りさえすれば、再帰的に自身の能 ...
改憲と第9条をめぐる不幸『50年前の憲法大論争』
本書『50年前の憲法大論争』は、1956年に開かれた衆議院の公聴会で、「憲法調査会法案について」なされた喧々諤々の議論の記録を編集したものである。これを読む限り、当時は少なくとも、近年行われている改憲の議論よりも内実のある議論がなされていたようである。と ...
薄気味の悪い政治ミステリー『夜の来訪者』
本作『夜の来訪者』は、ジャーナリストや批評家として活動したほか、社会運動にも積極的であったプリーストリーの戯曲。社会主義的色彩が濃厚な作品である。あらすじは、娘の婚約を祝う団らん中の一家のもとを、捜査中の警部を名乗る男が訪れる(夜の来訪者)。若い女性が自 ...
消えた4割打者「両極端の消滅」
今回は、古生物学者グールドのエッセイ集『フラミンゴの微笑』の下巻冒頭を飾っている「両極端の消滅」というエッセイである。表題が半ば答となっているのだが、米国大リーグでなぜ、1941年のテッド・ウィリアムズを最後に4割打者が誕生しなくなった(このエッセイが書 ...
職人の魂と親方の心『五重塔』
本作『五重塔』は、以前に言葉の問題で取り上げたことがあるが、小説の内容についてもレビューしておこう。小説としては露伴の代表作の一つで、新旧の二度、映画化もされている。なるほど、登場人物の個性、その心理描写、いくつかの「事件」、そして五重塔をめぐる分かりや ...
研究と治療の長く険しい歴史『病の皇帝「がん」に挑む』
本書『病の皇帝「がん」に挑む』は、病の皇帝すなわち癌の研究と治療の歴史を追ったもの。本書の存在は出版当時から知っていたのだが、しばらくは手に取らなかった。というのは、珍しくかつ幸運なことに、管理人の家系には癌で亡くなった者は(知る限り)いないからだ。何と ...
版画家エッシャーの心『無限を求めて』
本書『無限を求めて』は、独特の平面分割や奇妙な立体等で有名なエッシャーの文章を集めたもの。自身の芸術観を語る往復書簡と演説、(病気のため実現しなかった)アメリカでの講演用の原稿、平面の正則分割に関する論考、そして晩年のエッシャーと親しかったフェルミューレ ...
現代の労働者管理の元祖か『奴隷のしつけ方』
本書のタイトルは『奴隷のしつけ方』という奇妙なものだが、もちろん、そのような内容のマニュアル本ではない。本書は、古代ローマの架空の貴族(マルクス・シドニウス・ファルクス)が奴隷管理法を語り、実際の著者(ジェリー・トナー)がその監修と解説を担当する、という ...