認知のアーティファクトの未来予測『人を賢くする道具』
未来予測というものは、大抵は外れる。それも、何か別の対象を予測していたのかというくらいに外れる。しかし、それは未来は想像もつかないくらいに開けていることを示していると考えれば、まんざら悪いばかりでもないかも知れない。本書『人を賢くする道具』は、未来予測の ...
政治家に問う自覚と責任『職業としての政治』
少し以前、人気ジャーナリストであるI氏が、与党の二世議員であるK氏に「マックス・ウェーバーの『職業としての政治』についてどう思うか」という質問をしていた。自分はしっかり予習しておいて、おそらくは読んでいないか忘れてしまっているかの相手に質問するのだから、 ...
超俗人の俗世界での闘い『ピープス氏の秘められた日記』
このブログには本のジャンルに対応したタグが15個あるが、本書『ピープス氏の秘められた日記』にはどれを付けたら良いのか悩ましい。とりあえず、当時の歴史が分かるから「歴史」と付けてみたが、いわゆる歴史本ではない。日記文学というのもあるから「文学」も入れてみた ...
獰猛な自然の闇、原始の人間性の闇『闇の奥』
本書『闇の奥』は、ポーランド系イギリス作家である作者の代表作。アフリカ最奥部の出張所で音信を絶った腕利きの象牙採取人を、船乗りの主人公マーロウが救出しに向かう、という筋書きだ。自ら船乗りとしてコンゴ川の上流まで行った体験を基にした、作者お得意の海(本作で ...
「夜警国家」ならぬ「夜警メディア」はいかが『誤報』
本書『誤報』は、タイトルそのまま、マス・メディア(主に新聞)の誤報に焦点を当て、その原因と過程を分析・検証したもの。著者自身がかつて悩まされ、また他に迷惑もかけてきた誤報についての著者なりの総括である。その著者は朝日新聞の元記者。誤報の例は各新聞から採ら ...
現代科学が解き明かす生物の合目的性『偶然と必然』
本書『偶然と必然』は、ノーベル医学生理学賞受賞の著者が、合目的性を大きな特徴とする生物の謎、そしてそこに内在する思想問題に迫った本である。我々人間をはじめ、すべての生物に一定の合目的性が備わっていることは、否定のしようがない。しかし、通常「目的」というの ...
名画を説く絵画のような文章『名画を見る眼』
本書『名画を見る眼』は、岩波新書で正続二巻。続編中の一編に驚いたので紹介したい。著者の高階秀爾氏の本は以前にも取り上げたのだが、その時の本のテーマは著者の専門外の日本の美。今回のは専門中の専門である西洋美術。本書は、著者が西洋の名画を一点10頁くらいで、 ...
無政府主義者の科学、なのか?『科学の不思議』
本書『科学の不思議』の著者は、アンリ・ファーブル。『昆虫記』で有名な、あのファーブルである。内容はその著者や表題から想像できるとおりで、少年少女向けに、さまざまな科学上の疑問に答えてゆくというもの。 しかし、ここで注目したいのは、本書の訳者である。大杉 ...
近代日本の『夜明け前』の激動期を生きた「人」と「家」と「故郷」
記念すべき100件目の記事は、この作品で。が、とにかく長かった。海外の小説では、ドストエフスキーにせよ、トルストイにせよ、長い小説に事欠かず、「プルーストの『失われた時を求めて』を読んで時が失われた」という笑い話があるくらいだが、日本の小説はそうではない ...
実はナイーブな「ガイア=母なる地球」ではなかった『地球生命圏』
本書『地球生命圏』の出版は1979年(日本では1984年)。当時は環境保護ブームに乗って、ずいぶんと話題になった。何より、ガイアすなわち、地球上に生きるものすべてが全体として構成しているひとつの生命体、自らの棲み処である地球環境を積極的に維持し調節してい ...