電子書籍の得失 - その最大の問題点は「全焼」

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 管理人は、海外のサービスが日本に入り出したころから、電子書籍(具体的にはKindle)を利用している。当初は少し抵抗があったものの、慣れてしまえば便利なことは確かだ。電車の中や空き時間にスマホで「ちょい読み」するとか、キーワードで全文検索するとか、電子書籍でなければできない利用法もある。何より、紙の本は置き場に困るし、処分するのも勇気が要るが、電子書籍にはその心配がない。そういうわけで、200タイトルくらいは持っているはずだが、紙の本に比べるとその1割にも満たない。なぜかと言えば、やはり気になる点もあるからだ。

電子書籍は一代限り

 まず、電子書籍は一代限りで相続できない。紙の本であれば、自分が死んでも取りあえず資産として残る。しかし、電子書籍の場合、サービス事業者から契約で許諾を受けているだけだから、原則として一代限りである。実際に各事業者の利用規約を見てみると、「コンテンツに対するいかなる権利も第三者に譲渡してはならない」程度のことしか書かれておらず、ハッキリしないのだが、期待しない方が良いだろう。
 もっとも、これは大した問題ではない。多くの本は古くなって情報価値がなくなるし、そうでない本も、言葉や背景が古くなって過去のものになってしまう。そもそも、自分には大事な本でも、残された者が興味を持つとは限らない、それどころか処分に困る無用の長物になるかも知れない。古い書籍が資料的価値を持つとか、よほどの蔵書家が亡くなった場合の「〇〇文庫」などというのは例外である。管理人も、この点はそれほど気にならない。

電子書籍は頭に入らない?

 次は少し問題だ。紙の本と違って、電子書籍は頭に入ってこない気がする。もちろん、テキスト(図表や写真等も含めて)そのものは同じだから、読んでいる時に、特に違いを感じるわけではない。しかし、電子書籍の場合は、本の内容が全体として頭に定着しない、という感覚を拭えない。
 本には、テキスト自体が持つ論理的構造だけでなく、モノとしての本が持つ物理的構造があって、人が本を理解するときにはその双方が絡み合って関係してくるのでは、という気がしている。紙の本であれば、ページ内での位置関係といったことが論理構造の把握に何となく役立っているのに対して、レイアウトが自由な電子書籍ではかえってそれが欠落してしまう。ある本の改訂版が出たとき、改定されていない箇所でもページの位置が変わっていると、どこかよそよそしく感じてしまう、その感覚が、電子書籍には常につきまとう。だから、小説のように読み流せるものは電子書籍を買うが、仕事関連の少し込み入ったものでは二の足を踏んでしまう。
 もっとも、これは紙の本に引っ張られているロートルの感覚で、若い「電子書籍ネイティブ」であれば、違った感覚になるのかも知れない。論理構造の把握にしても、物理的構造に制約されることなく、頭の中で自由に論理を組み替えることができるのではないか……。と思っていたのだが、そうでもないらしいという研究があるようだ。「紙の本が電子書籍よりも優れていることを示す数々の研究報告」という記事によると、比較的若い人(大学生)でも、電子書籍での理解度は落ちるようである。その理由も、管理人が考えていたのと同じようなところにあるらしい。もし、これが本当だとすると、子供の教育で電子化を進めること、例えば教科書や参考書を電子化することは、手放しで賛成できないことになる。

電子書籍は「全焼」しかねない

 最後が一番問題だ。電子書籍サービスが終了してしまった場合だ。電子書籍は、サービス事業者との契約で許諾を受けているだけだから、サービスが終了してしまえば「蔵書」が一瞬にして消えてしまう。著者から直接に許諾を受けているわけではないから何の権利も残らないし、そもそも利用のためのプラットフォームが停止しているのだから、どうにもならない。
 日本でも、ローソンやTSUTAYAといった有力事業者が運営する電子書籍サービスが閉鎖されるということが、実際に起きた。こうした場合、代金相当額のポイント返金がなされたり、他のサービスに引き継がれたりということはあるが、その保証があるわけではないし、事業者が倒産するような場合はどうにもならない。火事に遭って蔵書が全焼してしまうようなもので、もし人生の終盤にこういうことが起こったら堪らない気がする。
 安心して電子書籍を楽しむために、少なくとも紙の本と同じくらいの「可用性」を持たせるとすれば、個々のサービス事業者に任せることでは無理だろう。例えば、電子書籍の公的なリポジトリを作り、著者はそこに自身の著作をストックしていく。サービス事業者は(何かの付加価値をつけて)それを利用者に貸し出すのだが、許諾は著者が直接に与える形にすれば、事業者が潰れても問題ない。著作権が消滅すれば、リポジトリが公開される。管理人は知らないが、どこかの国で既に似たようなことをやっていてもおかしくはない。
 いわゆる「自炊」であればこの問題はクリアされるから、電子書籍のメリットだけを得たい人は、それが一つの選択肢にはなる。とはいえ、自炊本では目次も検索も使えないから、まったく同じというわけにはいかない。また、本の置き場の問題を解消するほど徹底するなら、自炊代行に頼るしかないが、これも裁判所に違法宣告されてしまった。電子書籍が登場してもう10年以上になるというのに、どうにも中途半端な感じがする。

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