小津映画ばりの超絶モノクローム小説『桑の実』
管理人はそれほど起伏のない小説も好んで読むのだが、本作『桑の実』には驚かされた。本当に何も起こらない。起こらないどころか、何か起こりそうなところをあえて抑え込んでしまうような徹底ぶりなのだ。作者は「赤い鳥」など童話で有名な鈴木三重吉、童話の手法が何か関係 ...
全体主義から共産主義を経て権威主義へ『隷従への道』
本書『隷従への道』は、著者ハイエクの主著の一つ。自由主義や民主主義が全体主義へと「隷従」していきかねない思想と社会の動きに警鐘を鳴らしたものだ。本書の出版は1944年、第二次世界大戦中であるから、必ずしも西が東を敵と見た本ではない。むしろ西の中に胚胎しつ ...
昔の教科書から様変わりした時間と空間の最先端『宇宙を織りなすもの』
本書『宇宙を織りなすもの』は生粋の科学本、宇宙を構成する時間と空間の正体に迫った本だ。著者のブライアント・グリーンは、欧米に良くいる一流の学者でありながら筆が立つというタイプで、とにかくもの凄い筆力である。原子の内部から宇宙の果て、さらにはブラックホール ...
性善説と性悪説と捏造研究の歴史『Humankind 希望の歴史』
性善説か性悪説か、本書『Humankind 希望の歴史』の主張は単純にそれだけの話ではない。しかし、旧約聖書以来の西洋思想に染みついた性悪説とそれがもたらす(自己成就予言的な、あるいはノセボ効果的な)害悪を正面から叩く、それも事実と証拠に照らして叩く、と ...
遠い昔の遠くない記憶『青べか物語』
本書『青べか物語』は、作者が1年半ほど住んでいた浦粕での人や事件を題材にした小説である。その1年半とは1928年頃のこと、浦粕とは現在の浦安である。実は管理人も30年以上も前にその近くに住んでいたことがあるのだが、本作に出てくる浦粕とは比べ物にならない。 ...
未完にもほどがある未完の大作『神州纐纈城』
本作『神州纐纈城』は、未完ながら作者である国枝史郎の代表作。人の血を絞って染めた纐纈布をめぐって話が進むので、ジャンルとしては怪奇モノというようなことになるのだろうが、それに納まらない内容がある。本作と同じくらいの怪奇モノであれば、小説でも映画でも漫画で ...
権利と価値との衝突『「レンブラント」でダーツ遊びとは』
本書『「レンブラント」でダーツ遊びとは』は、文化的遺産について、権利と価値あるいは価値と価値が衝突する場合、これをいかに調整するかという課題に取り組んだものである。ショッキングな本書の題名は、それを端的に表している。レンブラントの絵画、例えば「夜警」であ ...
異国の経済を立て直した昭和の日本式エネルギー『ルワンダ中央銀行総裁日記』
本書『ルワンダ中央銀行総裁日記』は、正にタイトルどおりの本。話が開発途上国の経済立て直しというものだから、浮かれた話は一切出てこないのだが、冷静に考えてみるとやっていること自体は相当に破天荒である。地球の裏側の国で何かを売り歩いたとか、何かのビジネスを立 ...
人情モノであって任侠モノでない『花と龍』
そういう映画があることは知っていたが、原作が小説であることは知らなかった本書『花と龍』。読んだのもたまたま暇だったからであり、それほど期待はしていなかった。しかし、読んでみて驚いた。とにかく面白い。同じ大河小説である『ジャン・クリストフ』はノーベル文学賞 ...
実は最高聖人を生み出す人間機械論『人間とは何か』
人間、どう変わるか分からない。本作『人間とは何か』の作者マーク・トウェインは、明るさに満ちたアメリカ文学の最高峰『ハックルベリィ・フィンの冒険』の作者でもあるのだが、晩年は本作のようなペシミズムに沈んだ。しかし、近年の脳科学の成果によれば、作者の人間機械 ...