昔の教科書から様変わりした時間と空間の最先端『宇宙を織りなすもの』
本書『宇宙を織りなすもの』は生粋の科学本、宇宙を構成する時間と空間の正体に迫った本だ。著者のブライアント・グリーンは、欧米に良くいる一流の学者でありながら筆が立つというタイプで、とにかくもの凄い筆力である。原子の内部から宇宙の果て、さらにはブラックホールの中や別次元の世界にまで入り込んで展開される全体像をつかむのは決して容易でないが、部分部分についてはともかく分かった気にさせられてしまう。
物理学の方程式の「t」とは何か
もともと本書を手に取ったのは、時間についての科学的解説が欲しかったからだ。哲学者の展開する時間論はまさに形而上学である。それよりも現実にしっかり足場を置いた「時間とは何か」、物理学の方程式で「t」と表される「あれ」の正体を知りたかった。が、本書をもってしても、「要するに時間とは何か」という問いに対する端的な答えはないようだ。もしかすると人間にとっては「あれ」というのが一番の理解なのかも知れないが、本書によって「あれ」に向かって一歩も二歩も踏み出すことはできる。
時間は空間とセットにして時空と言われるように、事象が生起する入れ物ないし背景(こういう考え方自体が揺らいできているらしいが)の次元の一つを構成しているというのがスタートラインだろう。著者による、空間の次元を一つ落とした食パン型の時空モデル、そして特殊相対性理論を前提にした観測者ごとの同時世界へと話が進んでいく。ただ、時間には空間と違って次元内を自由に動き回れないという「時間の矢」がある。これはエントロピーが増大する方向だと説明できるが、そのためには宇宙初期の低いエントロピー状態を解明しなければならず、話はビッグバンとインフレーション理論に……と話は無限後退してゆく。
物質と力と空間1と空間2と時間
時空を満たす(はずの)物質の構成に関する研究もますます進んでいる。分子は原子から、原子は原子核と電子から、原子核は陽子と中性子から構成される。記憶は定かでないが、管理人の時代の教科書ではこのあたりで打ち止めになっていたはずだ。ところが実際は、陽子も中性子も電子もいくつかのニュートリノの組み合わせで出来ていることが分かり、現在有力な超ひも理論によれば、それぞれのニュートリノは異なる振動をするひも状の11次元体が立ち現われたものということらしい。
超ひも理論は物質だけでなく電磁力や重力といった力まで同じ枠組みに包摂できる、たいへん有望な理論なのだそうだ。ところがこれでもまだ打ち止めではないらしく、ひも以外にも膜のような基礎構造体があり、我々が認識している三次元空間はその膜に包まれたものだという(これまた)有力なM理論が出て来ている。こうなってくると、空間とその内容物の区別すらつかないようになってくる。また、このように膜で出来た空間とその膜が存在する「空間」は同じなのか別なのか、時間の方はどこに行ったのか、どこにも行っていないとすると時間と空間は決定的に性質が違うのか……と話は迷宮に入ってくる。
本書の原著出版は2004年である。既に18年が経っていることになり、この間、本書ではまだ仮説としてしか書かれていなかったヒッグス粒子が2012年に発見されている。他にも研究の進歩はあるだろう。そしてこの先、どこまで行くのだろう。果たして、行き着く先はあるのか、ないのか。
宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体 上/下
ブライアン・グリーン 著
青木 薫 訳
早川書房









