差別と差別語の間『差別語からはいる言語学入門』
本書『差別語からはいる言語学入門』は、差別語をテコにした言語学の本である。さまざまなニュアンスが染みつく日常語は豊かな言語の土壌である反面、その負のニュアンスが肥大化すると差別語を生み出す、したがって差別語を通して見ると生きた言語のさまざまな側面が見えて ...
笑いは武器かガス抜きか『ナチ・ドイツと言語』
少し以前に、日本のコメディー界には欧米のそれにあるような権力批判が欠けているのではないか、というような話があった。確かに、(皆が皆ではないにしても)欧米の一流のコメディーには笑いだけでなく、権力者に対する風刺や、政治批判・社会批判が込められていることが多 ...
科学と魔術とトリックの日本社会『科学と社会』
本書『科学と社会』の著者は中谷宇吉郎。寺田寅彦を師に持ち、北大を拠点に低温科学の研究に多大の業績を残した物理学者である。世界で初めて人工雪の製作に成功したことで知られるほか、科学を題材とした一般向けの随筆もよくした。中でも『雪』は、科学者としての冷静な観 ...
超絶AIと意味のない世界『スーパーインテリジェンス』
AIが進化している。いろいろと人間脳の制約を引きずる全能エミュレーションなどと異なり、機械的なAIはいかに困難で時間がかかるとしても、シンギュラリティのレベルに達することに原理的な制約は見当たらない。そして、いったん軌道に乗りさえすれば、再帰的に自身の能 ...
改憲と第9条をめぐる不幸『50年前の憲法大論争』
本書『50年前の憲法大論争』は、1956年に開かれた衆議院の公聴会で、「憲法調査会法案について」なされた喧々諤々の議論の記録を編集したものである。これを読む限り、当時は少なくとも、近年行われている改憲の議論よりも内実のある議論がなされていたようである。と ...
薄気味の悪い政治ミステリー『夜の来訪者』
本作『夜の来訪者』は、ジャーナリストや批評家として活動したほか、社会運動にも積極的であったプリーストリーの戯曲。社会主義的色彩が濃厚な作品である。あらすじは、娘の婚約を祝う団らん中の一家のもとを、捜査中の警部を名乗る男が訪れる(夜の来訪者)。若い女性が自 ...
現代の労働者管理の元祖か『奴隷のしつけ方』
本書のタイトルは『奴隷のしつけ方』という奇妙なものだが、もちろん、そのような内容のマニュアル本ではない。本書は、古代ローマの架空の貴族(マルクス・シドニウス・ファルクス)が奴隷管理法を語り、実際の著者(ジェリー・トナー)がその監修と解説を担当する、という ...
経済学と社会学と歴史学への招待『社会科学における人間』
本書『社会科学における人間』は、社会科学における人間類型(これは、「ある時代のある国民が全体として特徴的に示す思考と行動の様式、そのタイプ」と説明されている、ウェーバーのいう「エートス」のようなもの)について概説したものだ。著者の大塚久雄氏は、戦後の経済 ...
トラウマもナラティブもない日本のテロ『歪んだ正義』
世界ではテロ的なことが頻繁に起きている。日本でも多少方向性は違うが無差別殺人のようなことがたまに起こる。そこまで行き着かなくとも、理不尽な負のエネルギーが他人に向けられることは少なくない。こうした行為に、人格異常とか身勝手の極みとかレッテルを貼ることは易 ...
原子力開発利用は沈むのか『原子力の社会史』
本書『原子力の社会史』は、日本の原子力開発利用の草創期からの歴史を、批判的視点で鳥瞰した本である。最後の章に福島原発事故が入っているが、これは事故後に追加されたもの。本書の旧版はその10年前に出ていたし、もとより著者の研究はそれ以前から一貫していた。福島 ...