科学は神話の後継者『宇宙の始まり』
本書『宇宙の始まり』は、スウェーデンの物理化学者である著者が1907年に書いた、神話時代から現代(著作時点)までの宇宙開闢の認識についての「進歩」を語ったものである。あえて「進歩」と言ったのは、著者が科学者であるばかりでなく、同時代の西欧の知識人の例に漏 ...
男女関係ぬきの『或る女』はどうだろうか
本作『或る女』は、有島武郎の長編小説。主人公である葉子は、非常に現代的かつ蠱惑的な女であって、倉地、木村はもとより、作中で名前が挙がるほどの男は皆、彼女の虜になってしまう。小説でそう創られているのだからそうだというしかないのだが、そんな女が実際どれほどい ...
職人の魂と親方の心『五重塔』
本作『五重塔』は、以前に言葉の問題で取り上げたことがあるが、小説の内容についてもレビューしておこう。小説としては露伴の代表作の一つで、新旧の二度、映画化もされている。なるほど、登場人物の個性、その心理描写、いくつかの「事件」、そして五重塔をめぐる分かりや ...
森鴎外の伝記文学の傑作『渋江抽斎』改め『抽斎&五百』
森鴎外には、伝記文学の傑作と称される三作品がある。『伊沢蘭軒』、『北条霞亭』、そして本作『渋江抽斎』である。中でも本作は、鴎外の全作品はおろか、近代日本文学の最高峰の一つとの声もあるほどだ。文章は惚れ惚れするほど立派。無駄な飾りがなく、抽斎本人から家族、 ...
昔の日本文学と昔の海外文学
幸田露伴の『五重塔』の書き出しは、「木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用いたる岩畳作りの長火鉢に対いて話し敵もなくただ一人、少しは淋しそうに坐り居る三十前後の女、男のように立派な眉をいつ掃いしか剃ったる痕の青々と……」となっている。これは新字新仮名に直さ ...
明治の仏僧が記した日本の奇書『チベット旅行記』
「日本の奇書」をインターネットで検索すると、『ドグラ・マグラ』のような推理小説が出てくるが、本書『チベット旅行記』の方がずっと「奇書」に値する。と言うか、本書はれっきとしたノンフィクションだから、書かれている内容つまり事実そのものが「奇」なのである。 「 ...
真実へのアンチ・テーゼ『嘘の効用』
本書『嘘の効用』は、戦後改革にも携わった法学の大家が書いたもの。裁判での「嘘も方便」から話が展開してゆく。裁判では、法律に事実をあてはめて判決を導く。「法律×事実=判決」である。ここは譲れない。ところが、法律が硬直化していて実情に合わないような場合、審理 ...
聖俗が対決する「超人」の一代記『レ・ミゼラブル』
本書『レ・ミゼラブル』は、一片のパンを盗んだために19年間も投獄され……と紹介されることが多いが、それは物語の導入で、実は本筋とあまり関係がない。そもそも窃盗での当初の刑期は5年、その後に4回も脱獄を繰り返しての19年である。当時としても重かったのだろう ...