『マインドセット』で人生は変わる、はずなのだけれど
「しなやかマインドセット」は、失敗を成功の基として捉えることができる。それができない「硬直マインドセット」は、能力こそが自分の価値だと考える。だから、成功も失敗も能力の発露、つまり、成功は有能の証であり失敗は無能の烙印ということになる。さまざまな挑戦の一つ一つは自分の能力に対する試練ということになるわけだが、その結果はあまりに重大なものだから、試練はなるべく簡単に済ませたい。そこで、自分の価値を守ろうとするあまり、失敗を遠ざけ、試練を遠ざけ、成長の機会そのものを失う……というのは本書の思考。
しかし、能力尊重や挑戦が試練だという考えはともかくとして、それが試練を回避するだけの結果に終わるとは限らない。実際問題、試練は回避しようとしても向こうからやって来るものだし、試練の結果で評価するのは「自分に甘い自分」ではなく「他人に厳しい他人」である。そもそも人生は成長のために失敗していられるほど甘くはなく、次々と押し寄せてくる試練で失敗しないよう、自分を護るため必死で「水面下の水かき」をするものだ……というのは管理人の捻くれ思考。
少し捻くれてみたのは、本書には、そんなにまでして成長したいのかと思えてしまう、息苦しいまでの成長志向があるように感じられたからだ。自分の可能性を開かせるのが人生の最大の価値、といった考えは分からないものではないが、こだわりすぎると却って人生が窮屈になる。
むしろ本書で注目したのは、しなやかマインドセットは単なる努力というのとは違う、というくだり。成功や成長のためにやっていた努力がいつしか自己目的になり、無駄な努力を宗教的熱心さをもって繰り返してしまう。これは、失敗の言い訳をあらかじめ努力の内に込めておくのだから、「捻くれた硬直マインドセット」とでも言えようか。
マインドセット「やればできる!」の研究
キャロル・S・ドゥエック 著
今西 康子 訳
草思社