日々の実践コミュニケーション論『理解の秘密』

心理,ハウツー

 「インストラクション」と言われると、指図や命令の類と考えがちだが、本書『理解の秘密』によれば、「どんなときにもインストラクションはついてまわる」ということだ。飛行機の乗客が安全装置の説明を受ける、会議に出席する、同僚と話す、新しい器具を買う、レストランで料理を注文する、自宅への道順を教える、レシピを見ながら料理する、医者に行く……、どんなときにもだ。
 著者はインストラクションについて、行動のための案内書、思考や行動を導くもの、人を動かす原動力、であると述べている。本書の内容は組織論やリーダー論といったところにも及ぶのだが、「インストラクション」という言葉からイメージする、やってもらいたいことを確実に伝える、受け取る、という基本的な部分に注目したい。

インストラクションの6要素

 まず目を惹かれるのは、インストラクションの構成要素だ。本書は、「使命」-「最終目的」-「手順」-「時間」-「予測」-「失敗」、という6段階の要素を提示する。これらのうち、前半の3つは分かりやすい。面白いのは、後半の3つである。本書では、これを自宅への道案内の例で説明している。
 「時間」は、目的地あるいは目標物への所要時間。仕事の場面であれば、スケジュール感や作業ボリュームの手掛かりともなるだろう。「予測」は、インストラクションの受け手が出会うであろう中間目標。途中で教会が見えたら右に曲がればよい、といったことだ。「手順」を補完し、安心感を添える。「失敗」は「予測」の逆で、途中で出会うかも知れない失敗の目印である。〇〇ショッピングセンターまで来たら行きすぎ、といったことだ。なるほど、これがあれば、誤った「道」に突き進んでしまうことを防止できる。
 ただ、道案内の例では、比較的分かりやすいが、もっと高度な(創造的な)インストラクションにこれを応用しようとすると、少し戸惑いそうだ。逆にこれがうまく出来れば、インストラクションの質はかなり上がるだろう。管理人は、「こんな感じ」といった適度に具体性のあるイメージを伝えることを重視してきたが、この「予測」や「失敗」あたりと絡めるというまく行くのではないかと考えている。

マニュアル作りの諸問題

 著者は、電話帳、トラベル・ガイド、オリンピック・ガイド、道路地図など、新たな編集方針に基づいた実践的なガイド物での実績が豊富だ。それもあって、マニュアルについては、その作り方も、読み方も、かなり詳しく論じている。マニュアルが分かりづらい、というのは昔からあった問題だが、それは作り手の技術も意欲も十分でなかったことが原因だ。しかし、著者の活動が与って力があったのかどうかは分からないが、この10年、20年で少しづつ、作り手の技術も意欲も向上してきたようだ。
 さて、マニュアルについて飛び切り面白いのは、「マニュアルの故郷をさがして」という、企業におけるマニュアルの作成者を追跡した著者の同僚の報告書だ。ここでは、ソニーやゼネラル・エレクトリックといった名だたる企業が登場するのだが、途中で、「私は、連邦証言者保護計画にもとづいた、マニュアル作成者の正体を隠そうという秘密計画があるのにちがいないと思いはじめた。おそらくこのマニュアル作成者保護計画は、『チアーズ』を録画できなくて怒り狂った消費者から、マニュアル作成者とその家族の生命を保護するために考え出されたものだろう。」という陰謀論まで飛び出すくらい、追跡は困難を極める。もちろん、面白いだけでなく、国際化によるビジネスのやり方の変化と関連づけた考察が続いている。

実践コミュニケーション論

 ところで、管理人があまり読まないジャンルの本がある。いわゆる「ビジネス書」だ。もちろん、本の内容次第ではあるが、経営者の取り繕った昔話とか、安直に利益追求につなげたがる姿勢とか、どうも底が浅いという印象が拭えず、わざわざ手に取る気がしない。本書も、広い意味ではビジネス書の範疇に入るのだろうが、「インストラクション」という観点から見た実践コミュニケーション論として、立派に通用する内容になっている。


理解の秘密 マジカル・インストラクション
リチャード・ワーマン 著
松岡 正剛 監訳
NTT出版

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書評

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