現代科学が解き明かす生物の合目的性『偶然と必然』

本書『偶然と必然』は、ノーベル医学生理学賞受賞の著者が、合目的性を大きな特徴とする生物の謎、そしてそこに内在する思想問題に迫った本である。我々人間をはじめ、すべての生物に一定の合目的性が備わっていることは、否定のしようがない。しかし、通常「目的」というの ...
名画を説く絵画のような文章『名画を見る眼』

本書『名画を見る眼』は、岩波新書で正続二巻。続編中の一編に驚いたので紹介したい。著者の高階秀爾氏の本は以前にも取り上げたのだが、その時の本のテーマは著者の専門外の日本の美。今回のは専門中の専門である西洋美術。本書は、著者が西洋の名画を一点10頁くらいで、 ...
読書と騒音① 電車騒音は運よくクリア

読書のためには、それなりの環境を整えることが必要である。中でも重要なのが、どうやって騒音を避けるかである。特に管理人は、それでなくても気が散るタチなので、ずっと気に掛けてきた。ただ、騒音は外から問答無用で入ってくるものだから、対策を立てようにも限界がある ...
無政府主義者の科学、なのか?『科学の不思議』

本書『科学の不思議』の著者は、アンリ・ファーブル。『昆虫記』で有名な、あのファーブルである。内容はその著者や表題から想像できるとおりで、少年少女向けに、さまざまな科学上の疑問に答えてゆくというもの。 しかし、ここで注目したいのは、本書の訳者である。大杉 ...
近代日本の『夜明け前』の激動期を生きた「人」と「家」と「故郷」

記念すべき100件目の記事は、この作品で。が、とにかく長かった。海外の小説では、ドストエフスキーにせよ、トルストイにせよ、長い小説に事欠かず、「プルーストの『失われた時を求めて』を読んで時が失われた」という笑い話があるくらいだが、日本の小説はそうではない ...
実はナイーブな「ガイア=母なる地球」ではなかった『地球生命圏』

本書『地球生命圏』の出版は1979年(日本では1984年)。当時は環境保護ブームに乗って、ずいぶんと話題になった。何より、ガイアすなわち、地球上に生きるものすべてが全体として構成しているひとつの生命体、自らの棲み処である地球環境を積極的に維持し調節してい ...
前衛詩人の短編小説『猫町』

本作『猫町』の作者である萩原朔太郎は、言うまでもなく(当時としては前衛の)詩人である。詩人ではあるが、数は多くはないものの小説や随筆も書いている。それが珍しくて本作を手にしたのだが、本の薄さ(その薄い文庫本に18編が採録されている)の割には中身は濃厚とい ...
本の力、思想の力『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』

本書『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』は、まさに「数奇な運命を辿った本」についての本である。その本とは、紀元前一世紀に生きたルクレティウスの手になる、原子論的自然学を説いた『物の本質について』。この本自体が大変な珍本で、近代科学につながる物質や宇宙 ...
本は買うものか借りるものか

最初のころに書いたことがあるが、管理人は他人から本を借りることはしない。特に、友人や知人の方から貸そうとしてくるのを借りるのは禁物だ。興味が持てるかどうか分からない本を無理してでも読まなければならなくなるし、返す時に感想の一つも言わなければならない。義務 ...
『読んでいない本について堂々と語る方法』があるようだが結局は全部読んでしまう

本書『読んでいない本について堂々と語る方法』は、誤解されそうな題名がついているが、読んでもいない本について知ったかぶりをするとか、読んでいない本について読書感想文を書くとかといった本ではない(それにも使えそうではあるが)。本を読むより自分自身を語ることの ...