無で始まり無で終わる栄枯盛衰の物語『百年の孤独』

本書『百年の孤独』は、南米コロンビアのノーベル文学賞受賞作家ガルシア・マルケスの代表作。本作が受賞の決定打になったことは疑いないが、いかにも特異な作品である。受賞理由は「現実的なものと幻想的なものを結び合わせて、一つの大陸の生と葛藤の実相を反映する、豊か ...
苦悩する孔子とその弟子たち『論語物語』

本書『論語物語』は、『次郎物語』で有名な著者の下村湖人が、『論語』の主な教えを同じ登場人物で物語風に再構成して見せたもの。『論語』の精神が分かりやすく示されていて、オリジナルの『論語』やその解説を読んだだけではいま一つピンとこないところが生き生きと描かれ ...
読書と騒音③ 読書を妨げる意外な敵

自宅にいる場合の読書の大敵は電車と飛行機の騒音で、これを第1回と第2回で扱った。しかし、これらの騒音は音量としては大きいが、気を散らせるという意味ではもっと問題になる騒音もある。今回はこれらをまとめて採り上げて、自宅での騒音の完結編としたい。 ベランダの ...
不老不死の世界は幸福か『LIFE SPAN』

古今東西、不老不死が熱望されてきたことは、老化と死が避けられないものだという認識の裏返しである。怪しげな薬やまじないの類はそれこそ山ほどあったが、不老不死どころか、何の効果もないことは、現代医学の到来を待つまでもなく、うすうす気づかれていたことだろう。そ ...
チャンクと時計職人だけでも読む価値がある『システムの科学』

本書『システムの科学』は、コンピュータ科学、意思決定・問題解決の専門家で、ノーベル経済学賞も受賞した著者が、「これまでの得られた研究成果をふんだんに盛り込み、永年にわたって構想してきた雄大なテーマをここに初めて開陳する」というもの。抽象度が高く、難易度も ...
文章作法の必読書『論文の書き方』

手持ちの岩波新書は古いものが多いが、300冊くらいあるだろうか。今でこそ普通の新書という感じの岩波新書も、昔は少々格が高かったと思う。実際、古典的な価値を認められて岩波文庫に格上げされたものもあったはずである。そこで、しばらく離れていたものを再読しようと ...
アメリカだけでも資本主義だけでもない『ショック・ドクトリン』

本書の題名は『ショック・ドクトリン』。最初に読んだ時は聞き慣れなかったが、本書の影響なのかどうか、その後マスコミなどでも聞かれるようになった。この「ショック・ドクトリン」とは惨事便乗型資本主義、すなわち、戦争、津波やハリケーンなどの自然災害、政変などの危 ...
凡俗と稀代の音楽家をめぐる言葉の洪水『ジャン・クリストフ』

本作『ジャン・クリストフ』は、ノーベル文学賞も受賞したロマン・ローランの代表作。主人公のクリストフは、べートーヴェンがモデルになっているらしい。作者には、『ベートーヴェンの生涯』という伝記作品もあり、そちらの方は当然のことながら、才能と栄光とに包まれてい ...
翻訳語は日本語になったか『翻訳語成立事情』

250年の鎖国が解かれようとしていた時、日本は世界つまり西欧に大きく遅れをとっていた。遅れを取り戻すに当たって、なりふり構わず西欧の事物を吸収しようとした。そのこと自体は、ずっと中国の影響下にあった日本にとって初めてのことではなかったが、困ったことがあっ ...
嵐の中を放浪するのは天才か落伍者か『放浪記』

本作『放浪記』は、冒頭にある「私は宿命的に放浪者である」の言葉が印象的な林芙美子の代表作。出版社の説明によれば、「貧困にあえぎながらも、向上心を失わず強く生きる一人の女性」の自伝風の作品、というようなきれいな話になるのだが、実際のところは作者も作品も掃き ...