世論調査も政府統計もビッグ・データも信用できない!?『ダークデータ』
統計処理や計量経済のようなデータ分析を扱った本は数多あるが、ありそうでなかったのが本書『ダークデータ』のような、処理や分析の対象となるデータそのものを扱った本だ。ダークデータとは、正しい判断を下すのに必要だが欠けている情報やデータである。真実を客観的に照 ...
動物の性と人間の性『失われた名前』
本書『失われた名前』は、幼くして南米コロンビアのジャングルに置き去りにされ、「サルとともに生きた」女性の自伝である。「サルとともに生きた」とは副題の言葉であるが、実際、半ばサルの仲間になりながら、見様見真似でジャングルを生き抜いたのだ。もっとも、本書の半 ...
老学士院会員「浮世」で奮闘す『シルヴェストル・ボナールの罪』
本作『シルヴェストル・ボナールの罪』は、作者アナトール・フランスの出世作ということである。主人公のボナール先生は中世修道院の歴史を研究する老学士院会員、そして本に囲まれ古書の目録を味読する本の虫であるから、ギッシングの『ヘンリ・ライクロフトの私記』のよう ...
完全自由の先の断崖絶壁『村に火をつけ、白痴になれ』
本書『村に火をつけ、白痴になれ』は、無政府主義研究者である著者による伊藤野枝の(きわめて軽い文体による)評伝である。野枝については大杉と共に『科学の不思議』で触れたことがあるが、本書はその主義と生き方そのものを伝える本である。表題は小説の中での話のようで ...
犯罪心理と裁き手の心『殺された天一坊』
本作『殺された天一坊』は、探偵小説の古い小品。作者の浜尾四郎は検事から弁護士に転じた身で、かつては犯罪心理を研究していたという。現在でも専門家がその筋の作品を書くということはあるが、当時は珍しかったかも知れない。作者には『殺人鬼』のような本格的な探偵小説 ...
スポーツ賭博から厚底シューズまで『スポーツルールの社会学』
本書『スポーツルールの社会学』は題名どおり、スポーツの歴史や社会との関わりを主にルールの側面から俯瞰した小著である。近年のスポーツの変質を嘆くあまり、妙なところに力こぶが入っているところもあるが、興味深い話が幾つも出ている。少し古くなってしまっていて、最 ...
日本的精神が生む受動的全体主義の悲劇『特攻』
本書『特攻』は題名の通りあの特攻、すなわち死を前提に敵艦に突っ込んだ「特別攻撃隊」について書かれたものだ。特攻に関する文献は本書でもいろいろ引かれているように多数ある。その中で、比較的新しい資料やインタビューを含めて書き下ろされたのが本書だ。多くの言葉を ...
「クオリティ」の禅問答哲学『禅とオートバイ修理技術』
奇書好きの管理人にとって外せないのが、本書『禅とオートバイ修理技術』だ。題名からして奇異であるが、何やら哲学やテクノロジー論と関係したものらしい。そもそも管理人が本書の存在を知ったのは、たまたま読んでいた本が何と二冊続けて本書を引用していたからだ。二冊は ...
地球温暖化でイーハトーヴを救え!『グスコーブドリの伝記』
本作『グスコーブドリの伝記』は、宮沢賢治の童話。内容をつづめれば、主人公のブドリが、貧しい少年時代からの苦学の末、クーボー大博士に見込まれて火山局の技師となり、ついには科学技術の力をもって激しい寒気と凶作に立ち向かう、自身の生命という尊い犠牲を払って、と ...
隠れた哲学パラメータをえぐり出す『100の思考実験』
本格的な哲学や倫理学は取っつきにくい。一般向けの本を書いてもあまり売れないだろう。そもそも書くのが厄介だ。しかし、思考実験を持ってくると、話は変わってくる。本書『100の思考実験』はそこを狙い撃ちしたような本だ。思考実験の本領はそういうところにあるのでは ...